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広島高等裁判所 昭和51年(ネ)12号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

原判決主文第1項中「昭和四六年四月二〇日」とあるのを削る。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

一  申立

控訴人は、「原判決を取消す。原判決別紙第一目録記載の土地(以下本件土地という。)が控訴人の所有であることを確認する。被控訴人は控訴人に対し本件土地を引渡せ。被控訴人の反訴請求を棄却する。訴訟費用は、一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

被控訴人は、主文第一、第三項同旨の判決を求めた。

二  主張・証拠関係

当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり付加訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(一)  控訴人の主張

本件土地は、昭和二五年一一月二日の分筆時まで農地であつて、被控訴人は元井静一からこれを借受けて他主占有していた。そして被控訴人がその主張のようにその占有を継続したとしても、民法一八五条に定める占有の性質変更の事実はない。すなわち、被控訴人が昭和二四年一〇月一七日に本件土地を買受けたとしても、当時農地であつて、その所有権移転に必要な知事の許可あるいは農地委員会の承認はもとより、その手続もしていないのであるから、右買受の契約をもつて、新権原により更に所有の意思をもつて占有を始めたとなし得ない。

(二)  証拠関係(省略)

理由

一、本件土地及び原判決別紙第二目録記載の各土地(件外(一)ないし(六)の土地)の配置、所有権登記及び占有関係については、原判決理由一(五丁表一一行目初から七丁表五行目終まで、但し五丁裏五行目「成立」の前に「原本の存在」と挿入し、六丁表二行目「成立」を「本件土地付近の写真であること」に改める。)に説示されたとおりであるから、これを引用する。

二、右事実を基礎として、本件土地の所有権の帰属につき判断する。

(一)  控訴人が本件土地につき藤原正一から昭和二六年四月一四日売買を原因として同月二〇日所有権移転登記を得ていることは、前述のとおりであつて、右所有権移転を否定するに十分な証拠はなく、右登記が錯誤により無効であるとする被控訴人の主張はにわかに肯定し得ない。

(二)  原審証人菅野文子の証言により成立を認める乙第三号証と同証言及びさきに引用した原判決理由一(二)の事実によると、被控訴人は、昭和二四年一〇月一七日に当時の所有者元井静一から、当時一筆であつた本件土地及び件外(一)(二)(三)の土地を買受け、代金を支払つた事実が認められる。件外(一)(二)(三)の土地の登記関係も右認定と異なることはさきに引用した原判決理由一(二)に説くとおりであるけれども、右証言によれば、右登記は元井静一死亡後の交渉の結果であつて、その実質は右認定の契約によるものであること、被控訴人は、本件土地を含めた右買受土地について移転登記を完了したと考えていたことが認められ、その他前記認定を左右するに足る証拠はない。また、右契約が合意解約となつたと認めるに足る証拠もない。

(三)  さきに引用した原判決一の(三)ないし(五)の事実及び右(二)の事実によれば、被控訴人は、右売買契約の日に、本件土地につき新権原に因り所有の意思をもつて占有を始めたものということができ、右占有は平穏かつ公然のものと推定される。本件土地が当時農地であつて、所有権移転に必要な知事の許可又は農地委員会の承認の手続がとられなかつた事実は、被控訴人の所有の意思の存在を認める妨げとならず、その他右認定に反する事由は見出し得ない。

その後、被控訴人が本件土地の所有の意思を放棄した事実は認められない。

(四)  以上の事実によると、本件土地については、元井静一から被控訴人と控訴人とに対し二重売買がなされたことになり、被控訴人は、右買受による所有権を登記を有する控訴人に対抗できない。けれども、被控訴人は、本件土地につき新権原により自主占有を始めた日から二〇年を経過した昭和四四年一〇月一七日時効完成により本件土地の所有権を取得したものということができる。右時効完成前に第三取得者(藤原正一あるいは控訴人)が本件土地につき所有権移転登記を得た事実は、時効中断事由となり得ず、仮に、これを中断事由と解しても、時効完成時期が異なるに止まり、被控訴人が本件土地の所有権を時効取得したことに差異はない。

三、してみると、控訴人の本訴請求はいずれも失当として棄却し、被控訴人の反訴請求は正当として認容すべきであつて、同趣旨の原判決は相当であるから、本件控訴は棄却を免れない(但し、叙上の趣旨にしたがい、原判決主文1項中時効完成日の記載を削除する。)。

よつて、民事訴訟法三八四条、九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

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